正直に言うと、「月齢に合ったおもちゃ」という言葉を使うたびに少し躊躇する自分がいます。子どもの発達には個人差があって、同じ8ヶ月でも全然違う。それでも、手の動きや認知の段階には大まかな流れがあって、木のおもちゃを作るときにその流れを無視すると、子どもにとって「ただ転がっているもの」になってしまうことを、制作を続ける中で何度も実感してきました。この記事では、0歳から3歳をざっくり4つの時期に分けて、それぞれの時期に子どもの手と頭が何をしようとしているのかを考えながら、おもちゃの形・サイズ・難易度の選び方を書いていきます。まだ「これが正解」と言い切れない部分も多いけれど、工房で試行錯誤してきたことをできるだけ具体的に書くつもりです。
0〜3ヶ月:握るより「当たる」感覚を楽しむ時期 ¶
この時期の赤ちゃんの手は、ほとんどの時間で拳を握っています。意図的に何かをつかむというより、手のひらに何かが触れると反射的に握る、という段階。だからこの時期に「握らせるおもちゃ」を用意しても、正直あまり意味がない。私が作るとしたら、直径7〜8センチ程度のなめらかな球体か、平らな円盤型。赤ちゃんの視野はまだぼんやりしていて、30センチくらいの距離にあるものがいちばんよく見えます。明暗のコントラストがはっきりしているほうがいいので、白木のままより、墨や柿渋で一面だけ色をつけた板を手元に置くほうが視線が集まりやすい。音については、この時期は静かな「コトン」という木の音でも十分刺激になります。鈴を仕込むとしたら、振ったときにうるさくない、1〜2個程度のごく小さいものにしています。
4〜8ヶ月:つかむ・口に入れる・落とすが仕事になる ¶
4ヶ月を過ぎると、手のひら全体でものをつかもうとする動き(掌握反射とは別の、意図的な把握)が出てきます。この時期のおもちゃ設計でいちばん気にするのはサイズです。誤飲防止の目安として、直径3.17センチのチョークテストがよく知られていますが、私は木のおもちゃでは直径4センチ以上を最低ラインにしています。丸みのある持ち手つきのラトルなら、太さ3センチ、長さ12センチくらいが手のひらにちょうど収まる。口に入れることは学習なので、やめさせようとするより、安全な素材と仕上げを徹底するほうが正しい対応だと思っています。工房では蜜蝋と植物油のみで仕上げ、塗膜をつくらない方針にしているのはそのためです。この時期の子どもは「落とす」行為も繰り返すので、割れにくい木種(ブナや楓)を選ぶことも実用上大切。
9〜14ヶ月:指でつまむ・容器に入れる・引っ張るへの移行 ¶
9ヶ月前後から、親指と人差し指でものをつまむ「ピンチグリップ」が発達してきます。この変化はおもちゃの設計に直接影響します。それまで「手のひら全体で持てる太さ」が重要だったのに対して、今度は「細い部分、小さな突起、薄いピース」への興味が出てくる。ただし誤飲リスクはまだ高いので、私は「つまめるけれど口に入らない」サイズを意識します。具体的には、厚さ1センチ以上・幅2センチ以上の木のピースを目安にしています。形のはめ込み(シェイプソーター)はこの時期から有効ですが、穴の形は最初は丸だけにするのが合理的。丸は向きを気にしなくていいので、認知の負荷が低い。四角や三角は12〜14ヶ月以降、子どもが「回転させて合わせる」動作に興味を示し始めてから追加するほうがいいと思っています。引き車は、この時期の「歩き始め」と重なるので特に喜ばれますが、紐の長さは30センチ以内にして首への巻きつきリスクを下げています。
15〜24ヶ月:積む・並べる・壊すという探索の時期 ¶
「積み木をどう積むか」より「どう崩すか」に夢中な時期があって、それは失敗ではなくちゃんとした学習です(崩れたときの音、感触、因果関係の確認)。この時期の積み木設計で私が大事にしているのは、寸法の整合性。たとえば一辺4センチの立方体なら、4×8センチの直方体と組み合わせたとき「2個分」になる。この比率が正確だと、子どもは無意識に数量の感覚を体験できます。逆に比率がバラバラだとただ積むだけになる。重さについては、1個あたり50〜80グラム程度が1〜2歳の手にとって「ちょうど抵抗がある」感触で、軽すぎると扱いが雑になりがちです。色は、この時期から色の認識がはっきりしてくるので、彩度の高い自然染料(たとえばターメリックや藍)で染めたものは視覚的に楽しめます。ただし全部染めるより「素木と染め木が混在」するほうが比較する遊びが生まれる、というのが最近の私の観察です。
25〜36ヶ月:ごっこ遊び・順序・「なぜ」への入口 ¶
2歳を過ぎると、おもちゃを「何かに見立てる」力が出てきます。丸い木の板がパンになり、細長い棒がスプーンになる。この時期の木のおもちゃは、過度に具体的な造形にしないほうがかえって想像力を引き出すと感じています。たとえば、食材セットを作るとき、私はリアルな野菜の形より、「切れる」「並べられる」「積める」という操作性を優先します。マジックテープで切れる木の野菜は定番ですが、切り口の面の大きさが重要で、3センチ角以上あると子どもが包丁おもちゃでしっかり押せます。またこの時期は「順番」への関心が出てくるので、大きさの違う輪を順に通すスタッキングリングは、単純に見えて認知的にちょうど良いチャレンジになります。難易度の調整として、私はリングの大きさの差を最初は倍率2倍以上にして、慣れてきたら1.3倍差程度のものに替えるという段階を提案しています。
素材と仕上げ:月齢を超えて共通して考えること ¶
どの月齢でも共通して気にしていることがあります。木の選択については、国産材ならカエデ・ホオ・サクラが口に入れても安心感があり、硬さもちょうどいい。輸入材ではブナ(ヨーロッパビーチ)が積み木の定番ですが、産地の確認は大事です。仕上げは前述の通り、蜜蝋と荏胡麻油または亜麻仁油のみ。ウレタン塗装は表面が滑らかで見栄えはいいけれど、口に入れたときの感触が木とは別物になってしまう。角の処理は、月齢が低いほど徹底的に丸める(R3以上)。2歳以降は少し角を残すと「木らしさ」が伝わる気がしています。重さのムラや木目のばらつきは、規格品のプラスチックにはない「それぞれ違う」という体験で、これは意図して残すようにしています。
まだ迷っていること、これからの課題 ¶
正直に書くと、まだ答えが出ていないことがいくつかあります。たとえば、「難しすぎるおもちゃは子どもをどれくらいで飽きさせるか」については、私の観察だけでは限界があります。発達心理学の文脈ではヴィゴツキーの「最近接発達領域」という考え方が参考になるけれど、それをおもちゃの難易度設計に直接当てはめるのは難しい。あと、感覚過敏のある子どもへの木の質感の影響も、もっと知りたいと思っています。いくつかの家庭から「ざらざらした木の感触が苦手で触れない」という話を聞いて、仕上げの滑らかさをもっと段階的に作れないか考え中です(今は320番のサンドペーパーで仕上げているけれど、400番・600番まで上げたサンプルを試している段階)。この記事も、書きながら考えが変わった部分があって、また半年後くらいに書き直すかもしれません。
月齢を目安にしながらも、目の前の子どもが何に手を伸ばしているかを一番の基準にしてほしいと思います。おもちゃは「正しく遊ぶ道具」ではなく、子どもが自分で世界を試す入口です。私もまだ作りながら学んでいる最中なので、疑問や気づきがあればぜひ聞かせてください。