木のおもちゃを作り始めて数年が経ちますが、正直なところ最初のうちは「国産材ならなんでもいいか」くらいの気持ちで材を選んでいました。それが少しずつ間違いだったと気づいてきたのは、ヤスリがけの手触りや、子どもが口に入れたときの反応を見ていくうちのことです。ブナ・ヒノキ・ナラという3種類の木は、同じ「国産広葉樹・針葉樹」というくくりに見えても、硬さも香りも狂いやすさも全然違う。今日はその違いをできるだけ具体的に、数字や実際の加工感覚を交えて書いてみます。まだ自分の中でも整理しきれていない部分があるのですが、それも含めて記録として残しておきたいと思います。

まず3種類の基本的な位置づけをおさらいする

ブナ(学名 Fagus crenata)は日本の冷温帯を代表する落葉広葉樹で、気乾比重はおよそ0.65前後。ナラ(ミズナラ、Quercus mongolica var. crispula)は0.70前後とさらに重く、広葉樹のなかでも特に硬い部類に入ります。一方ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)は針葉樹で比重は0.40〜0.44ほど、ふたつの広葉樹と比べると明らかに軽くやわらかい。この数字の差が、加工のしやすさ・重さ・耐久性にそのまま反映されます。私が材を選ぶとき、まず「これは何歳の子が使うか」「どんな動きをするおもちゃか」という問いから入るようになったのは、この比重の差を体感してからのことです。

ブナ——きめ細かく、狂いやすく、それでも愛される

ブナは木肌のきめが細かくて、カンナをかけたあとの表面がほんとうに滑らか。触ったときに「すべすべ」という感覚があって、赤ちゃんが握るガラガラや積み木の素材としてヨーロッパでは古くから使われてきました(あのドイツの木のおもちゃブランドがブナを多用しているのはそういう理由だと思っています)。ただ、ブナは乾燥に時間がかかり、含水率の変化で割れやすい。私の工房では梅雨明け後に保管していたブナ材に細かいひびが入ったことがあって、そこから材の保管場所を変えました。反りや狂いも出やすいので、厚めに仕上げて余裕を持たせるか、十分に乾燥した材を仕入れるかが大事です。加工自体は刃物の切れ味が良ければやりやすく、旋盤で丸い形を作るのに特に向いていると感じています。

ヒノキ——香りと軽さが最大の個性、でも傷はつきやすい

ヒノキを選ぶ理由の第一は香りです。あのさわやかで落ち着いた匂いは、フィトンチッドの一種であるα-ピネンによるもので、加工中も使用中も長く続きます。子どもの部屋に置いても安心感がある、という感覚は、私自身も工房でヒノキを削っているときに感じます。重さが軽いので、小さい子どもが持ち歩くおもちゃ——たとえば動物の形をした引っ張り玩具やパズルのピース——にはとても向いています。一方でやわらかいため、傷がつきやすい。硬いおもちゃ同士をぶつけるような遊び方をする子には不向きで、ここはちゃんと親御さんにも伝えるようにしています。オイル仕上げとの相性はよく、蜜蝋ワックスをかけるとしっとりとした質感になります。

ナラ——重くて硬くて、長く使えるけど加工が体力勝負

ナラは3種のなかで最も硬い。比重0.70というのは、同じ大きさの積み木を作るとブナより一回り重くなるということで、実際に持ったときの「ずっしり感」が全然違います。この重さと硬さが、長期間使っても角が欠けにくい耐久性につながっています。私が車輪付きの乗り物玩具や、床に叩きつけるような使い方をされる太鼓のバチ部分にナラを使うのはそのためです。ただし加工は体力を使います。電動工具の刃の消耗が早く、手カンナだと相当な腕力が要る。特にルーターで丸みをつける工程は、ブナの倍近く時間がかかる印象があります。コストもブナより高くなりがちで、仕入れ先によっては在庫が安定しないという悩みもあります(今も少し困っています)。

硬さ・香り・用途を表にせず言葉で整理する

表にまとめるのが一番わかりやすいのかもしれませんが、あえて言葉で書いてみます。硬さで並べるとナラ>ブナ>ヒノキ。香りの強さはヒノキ>ブナ(ほぼ無香)=ナラ(ほぼ無香)。加工のしやすさはヒノキ>ブナ>ナラ。長持ちする順はナラ>ブナ>ヒノキ。どの木が「いちばんいい」ということはなくて、使う場面で答えが変わります。Dappled Echo Forestでは、積み木はブナ、動物モチーフの軽い玩具はヒノキ、車輪や打楽器系はナラ、という使い分けをおおよそ基準にしています。この基準自体もまだ更新中で、たまにナラで積み木を試作してみたりしています。

仕上げの選び方も樹種によって変わる

ブナは導管が目立たず、オイルが均一に入りやすい。亜麻仁油ベースのオイルを薄く2〜3回塗り重ねると、色が少し濃くなって美しい。ナラは虎杢(とらもく)と呼ばれる独特の縞模様が出ることがあって、オイルを入れるとその模様が際立ちます——これが好きな方には喜ばれます。ヒノキは樹脂分が多めなので、蜜蝋ワックスとの相性が特によく、塗りすぎなければべたつかずにさらっとした手触りが保てます。どの樹種も共通しているのは、塗布前のサンディングを240番以上で丁寧にやること。ここを手抜きすると仕上がりが全然違ってくる、というのは3種類全部で学んだことです。

どの木を選ぶか、私なりの判断フローを共有します

私が材を選ぶときのざっくりした流れはこうです。まず「0〜2歳が使うか」を確認する。口に入れる可能性が高いならヒノキの香りはプラスになるし、軽さも安全。次に「強度がいるか」——引っ張り玩具の接合部やコマの軸など、力がかかる箇所にはナラかブナを使います。それ以外の積み木・パズルはブナを基本にする。コストと在庫の安定性も正直無視できないので、ナラは使う場面を絞っています。この判断は「正解」ではなくて、私が今のところ納得している方法、という温度感です。別の木工作家の方がまったく違う選び方をしていても、それはそれで理にかなっていると思っています。

木材の選択は、おもちゃそのものの設計と同じくらい奥が深くて、まだ全部わかったとは到底言えないです。この記事を書きながら、そういえばサクラ材もそのうち試してみたいと思っていたことを思い出しました。また何か変わったり気づいたりしたら、ここに追記していこうと思います。読んでいただいてありがとうございました。